借地権問題

実例!借地契約の特約に反して堅固建物を建てた場合、借地契約は解除できる?

旧借地法において、借地権は「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義されています。そして、借地上の建物は大きく分けると、堅固建物と非堅固建物の二つです。

・堅固建物
堅固建物とは、石造,コンクリート造,レンガ造の頑丈な建物を指します。鉄筋コンクリート造のマンションやビルが代表例です。旧借地法では、借地契約期間は、初回が最低30年以上、特に合意がない場合には60年。その後の更新では、30年以上、取り決めがない場合は30年です。

・非堅固建物
堅固建物とは、木造や軽量鉄骨造のあまり頑丈ではない建物を指します。木造アパートやブレハブなどが代表的な例です。こちらの借地期間は、初回契約が20年以上、特に合意がない場合には30年。その後の契約については、20年以上、取り決めがない場合は20年です。

このように堅固建物と非堅固建物では、契約期間が大きく異なり、また借地権存続の目安となる朽廃(建物が使用できなくなること)状態になるタイミングも変わってきます。

そのため、借地権の契約を交わす際に、「非堅固建物」に限定するケースが少なくありません。

ですが、堅固建物と非堅固建物の区別はあいまいなことが多く、建物の耐久性や解体の難易度、建物の材質や構造など総合的に判断するため、トラブルとなるケースが多数あります。

今回は、非堅固建物を建築する目的で契約した借地上に堅固建物を建築した場合について、判例をもとに解説します。

ケースの概要

貸主は、借主Aとの間に普通建物所有を目的とした借地契約を結びました。その際、X社の建築カタログに掲載されていたHD型の建物(いわゆるプレハブ)を建築し、それ以外の建物を建てる場合には、催告なく借地契約を解除できるという特約を締結。特約を結ぶ際は、内容を明確化するために、弁護士立ち合いの上、公正証書にて行いました。

ところが、借主Bは、借地上に特約で指定したHD型以外の建物の建設を開始します。この建物は、鉄筋コンクリートで基礎がつくられており、構造は鉄骨造りでした。

そこで、貸主は借主Bに対して、建設途中の建物に対する釈明を書面で求めましたが回答はなし。そのため、貸主は借主Bに借地契約の解除を書面で通達のうえ、借主Bに本件建物の撤去と土地の明け渡しを、本件建物の入居者である借主A・Cに退去を要求。さらに借主Aに対して、借地契約の終了に基づき、賃料相当の損害金の支払いを求めます。

これに対し、借主Aらは本件土地の一部が防火地域に指定されており、HD型では建築確認が得られない可能性があるため、建築確認が得られる最低限の建物を建築しただけと説明。特約はHD型に限る趣旨ではなく、信頼関係を破壊するものではないと主張しました。

判断ポイントは、堅固建物の基準と信頼関係

裁判所では、本件特約は土地の使用目的としてHD型の建築に限定したのは明らかである、建築された建物は堅固建物である、特約に反したことにより信頼関係は破壊された。以上3点により契約解除を認めました。

堅固建物については、本件建物が重量鉄骨造であり、丈夫で耐火性に優れ、解体撤去が難しいことから、HD型を遥かに上回る堅固建物と判断しました。

信頼関係の破壊については、次の5点を考慮して認定されました。
(1)建物建築までのいきさつ
貸主は借地契約時に、弁護士に交渉を依頼し、土地の使い道はHD型限定の旨を何度も確認し、公正証書に明記するなど、特約を守らせるために充分な手段を講じています。

逆に借主Aらは、貸主にHD型以外の建物を建設することを知らせず、HD型では建築確認を得るのが難しい旨の説明も一切していません。そのため、通常の特約違反よりも遥かに信頼関係を損ねると判断しました。

(2)特約違反の度合い
本件建物とHD型の違いは小さなものではなく、重大な特約違反だとの結論に至りました。

(3)承諾料の金額
借主Aが借地権を譲渡される際に、借地権のもとの持ち主へ承諾料を支払っていますが、鉄骨造建物所有を目的とした譲渡承諾料の相場の値段と比べた際に評価ができないので、信頼性を高める要因にならないと判断しました。

(4)違反理由
確かにHD型では建築確認が取得できない可能性があったものの、貸主との間で協議をしたり、協議で解決しなければ裁判所に借地条件の変更申し立てをしたりできたとの見解を示しました。無断で本件建物の建築を強行したことにより、信頼関係を大きく損ねたと判断しました。

(5)違反発覚後のいきさつ
貸主は借主Aらに、本件建物解体や借地条件の変更など解決方法の提示を求めたのに、借主Aらは対処せず、信頼関係が損なわれました。

まとめ

借地の使用目的を制限する特約があっても、貸主と借主の信頼関係を損なわない理由があれば、借地権の契約解除は認められません。今回のケースについては、特約違反の堅固建物を建てたうえ、借主の行動が信頼関係を損ねたため、解除が認められました。

堅固建物かどうか、信頼関係が損なわれたかどうかは詳細に事情を確認したうえで判断されます。トラブルを予防するには、専門家のアドバイスをあおぐのをおすすめします。

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