借地権問題

実例!借地条件変更において裁判所が考慮した事項を、判例をもとに解説します!その②

借地条件変更において、裁判所が考慮するべき事項は多くあります。今回は、その事項の中で3つの事例について解説していきましょう。

借地期間満了までの残存期間が7年程度である場合、堅固建物所有目的への変更は認められるか

・契約締結日:昭和20年秋頃
・契約の目的:非堅固な建物の所有
・借地期間:定められていないものの、昭和20年秋頃に更新されたので期間は昭和70年秋まで
・地代:昭和59年1月以降月額4万9000円
・本件建物:木造亜鉛メッキ鋼板瓦交葺平屋建 店舗兼居宅

今回のケースでは、借主であるXと貸主であるYの間で以上の借地契約を行いました。

ただ、本件建物を借りたはずのXは月に1回しか利用せず、元々Xは東京在住なので家族を含めた全員が居住する予定はありません。Xは元々老朽化が進んでいた本件建物が近く朽廃に至る状況だったことから、本件土地を使用して収益性を高めるために本件建物を取り壊して鉄筋コンクリート造5階建店舗兼居宅の建築を予定し、貸店舗・マンションにする意向を示しています。

一方でYは将来的な財産分与を考慮し、本件土地を自分で使用する必要があるのでXに対して土地の返還を強く望んでいます。Xは堅固建物所有目的への変更を求めて申し立てを行うものの、Yはこれを不服申し立てしました。

裁判所の判断では、堅固建物所有目的への変更する緊急性が乏しく、貸主の土地返還希望、借地契約満了時には正当な事由が認められる余地がないわけではないなど一切の事情を考慮した上で条件を変更することは妥当ではないと判断しました。

Xはあくまで収益性を高めるために土地が欲しいのであり、加えて借地期間の残存期間が残り7年程度、本件土地の返還希望などが行われていることから、変更は妥当ではないでしょう。

借地上の建物が相当老朽化している場合、堅固建物所有目的への変更は認められるか

続いてこちらのケースでは、貸主であるYらの父Aが昭和26年7月20日に作成した公正証書により、以下の条件で借主のXと本件賃借契約を交わしました。

・借地期間:昭和26年7月1日から昭和46年6月末日までの20年間
・用途:木造スレート葺き工場用建物の敷地
・解除要件:承諾なしで本件使用用途意外に使用すること、違背した時や一度でも賃料の支払いを遅延した時に無催告で借地契約を解除できる

その後、YがAから相続し、Xとの間の借地契約の貸主の地位を承継しました。

ところが、近い将来建物の老朽化が進み、朽廃する見込みがあることから借地権の消滅、そして本件建物をYの承諾を得ることなく無断増改築や無断担保設定、賃料不払いなどの債務不履行により、借地契約の解除を主張しました。

これはXが本件建物を取り壊して本件土地と隣接する土地に鉄骨鉄筋コンクリート造7階及び9階伊達のマンション建築を計画しており、なおかつ非堅固建物所有から堅固建物所有目的への変更を求めて申し立てを行ったからです。

さらにYは先ほどの申し立てとは別に建物朽廃による借地契約の終了、債務不履行に基づく解除による借地契約の終了を理由に本件建物収去土地明渡し求める訴えを起こしました。

裁判所の判断では、堅固建物所有目的への変更の申し立てを棄却することになりました。

これは、相当老朽化しているものの、近い将来朽廃する見込みがあるだけで、まだ朽廃に至っていないこと、借地契約の解除を行う相当な理由があったことが決め手です。

借主が勝手に行動したことによって債務不履行になってしまえば契約解除になるのは当たり前なので、Xの申し立ては実に図々しいと言われても仕方がないでしょう。

借地条件の変更を認める要件である「事情の変更」において、主観的要素は入るか

最後のケースでは、借主であるXが貸主であるYと以下の条件で本件借地契約を交わしました。

・契約締結日:昭和34年3月28日
・借地期間:昭和74年3月9日まで、または契約締結から40年間
・目的:非堅固建物所有

当時は本件土地周辺一帯が織物問屋街でしたが、現在では中高層ビルが立ち並び、本件土地周辺もビルに囲まれていることから、Xは堅固建物所有目的への変更を申し立てました。

第一審でXの申し立てを認め、財産上の給付を認定するにあたって貸主側の不利益と借主側の利益を鑑みて利益の衡平を図りましたが、Yは借地条件を設定した当時は既に商業地域、防火地域の中だったことを前提に借地契約を結んだので、借地権を設定した時の事情を考慮するべきだとして借地条件の変更は認められないとして抗告しました。

裁判所の判断では、旧借地法8条ノ2第1項における「事情の変更」に相当しないとしてYの抗告を棄却しました。Yが主張しているのはあくまで契約当事者の当時の意思を考慮に入れるべきだということですが、今回のケースはXの周辺の土地の利用状況の変化という客観的な事情によるものなので、Xの申し立てによる第一審の決定が基準となります。

よほどの事情がない限り、客観的な事実を最優先するのが事情の変更に基づく決定だと言えるでしょう。

まとめ

借地条件を変更するにあたって重要なのは、客観的な理由で申し立てを行っているか、建物が朽廃する見込みがあるかどうかです。事情の変更に基づいて決定する場合は双方どちらが客観的な理由で申し立てを行っているのかが争点になりますし、建物が朽廃する見込みがないならすぐに借地権が消滅することはありません。

周辺環境や建物の老朽化が、申し立ての結果を左右するでしょう。

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