旧借地法においては、建物保持のために、借地上に建物がある限り基本的には借地権は消滅しません。
特に契約期間に定めがない場合は、借地上の建物が朽廃(きゅうはい)、つまり建物が老朽化してボロボロとなり価値を失った状態にならない限り、法定存続期間内においては、借地権が存続します。
ですが、貸主が事前に修繕に反対していたのにもかかわらず大修繕が行われた場合は、どのような判断になるのでしょうか?
修繕前の建物が朽廃すると予想される時期と、修繕後の建物が朽廃すると予想される時期、どちらを借地上の建物の朽廃時期とするのかで、借地権が消滅するか否かの判断が変わってきます。
この記事では、実際に過去にあった2つのケースをもとに解説します!
ケース1の概要
借主は貸主から土地を借りて、本件建物であるアパートを建築し第三者に賃貸していました。この土地はくぼ地に建てられたような状態になっており、柱の下部分は床板ぎりぎりまで浸水していました。
そのため、水に浸かっていた柱の大部分が腐っており、屋根や壁、非常階段などの痛みも激しく、建物が傾くほどの損傷具合で、消防署から改修を要望されていました。そのため借主は、基礎や土台を含む大規模な修繕工事を実施しました。
一方、貸主は建物の修繕について、工事開始の1ケ月あまり前に、葉書にて土台直しなどの根本的な修繕をしないよう申し入れを行いました。さらに、修繕工事が終わる前には、大改修を理由に借地契約を解除する旨を通告。異議申し立てを行いました。
そして、本件建物は朽廃が予想される時期を迎えているので、借地権は消滅しているとして、建物撤去ならびに土地明け渡しを求め訴えを起こしました。
ケース1の判断ポイント:工事反対と完成前の異議申し立てを重要視
裁判所では最終的に、大修繕がなければ本件建物が朽廃したと予想される時期に借地権が消滅すると判断されました。
判断にあたっては、貸主が工事前に反対を表明しさらに工事完成前に異議を伝えていた点、修繕前の建物の状態、修繕のやり方などが考慮されました。
このケースでのポイントは、貸主が修繕工事に対して、明確に反対していたという事実です。もし貸主の反対を押し切って大修繕をした場合に、修繕後の建物が朽廃すると予想される時期を基準にしてしまうと、借主が大修繕を繰り返して、建物が永久に朽廃せず、いつまでも借地権が消滅しないという事態が起こりえます。それを防ぐために、修繕前の建物を朽廃時期の判断基準としているのです。
ただし、貸主が積極的に修繕に賛成していた場合や、異議申し立てをしなかった場合には、修繕後の建物が朽廃すると予想される時期を判断基準とする場合があるとの見解が示されました。
ケース2の概要
借主は貸主から借りた借地上に、本件建物を所有。それまで何度か必要に応じた補修や修繕はされているものの、全体的に老朽化が進み、柱や床などの一部が腐ったり、損傷したりしていました。
建物自体が傾いており、通常時には問題がなくても、地震や台風といった災害時には倒壊する危険があり、建物全体の大規模な修理が必要な状態だったといえます。
そのため借主は建物の傾きを直しつつ、新しい土台を置き、約20%の柱を交換するなど、大規模な修繕を実施。さらに、居住用の建物から観光用の建物へと使用目的が変わるのに伴い、内部構造も大幅に改造されました。
貸主は、工事に着手する前から反対の意を表明し、さらに工事中にも異議を伝え、本件工事禁止の仮処分決定も得ました。しかし、借主はそれよりも前に工事続行の仮処分決定を得て、修繕工事を完成したのです。
貸主は、本件建物は朽廃が予想される時期を迎えているので、借地権は消滅しているとして、建物撤去ならびに土地明け渡しを求めて訴えを起こしました。
ケース2の判断ポイント:朽廃の時期は、通常の修繕をした状態で判断
裁判所では、貸主が修繕工事に反対していた点、工事が建物の耐用年数に影響を及ぼす点などを考慮し、朽廃が予想される時期の基準は、修繕前の建物だと判断しました。
ただし、本件建物は劣化していたものの、通常の修理を行えば、建物をこれまでと同じく住居として使用可能な状態だったため、朽廃しているとは言えないと判断。借地権は存続しているという結論に達しました。
ここでのポイントは、朽廃が予想される時期の基準が、通常の範囲を超える大修繕後の建物でも、通常の修理を行わずに放置した場合の建物でもなく、通常の修繕をした場合の建物とされた点です。
ケース1との違いは、大修繕がなければ建物が朽廃していたかどうか、通常の修繕をしていれば建物が仕様だったかどうかにあります。
まとめ:大修繕工事はトラブルの原因に
ケース1・ケース2からも分かるように、大修繕工事はトラブルの火種になりやすいといえます。借地権が消滅するか否かは、貸主が事前に反対をしていたかどうか、工事の内容、建物の朽廃の有無など、総合的に判断されます。
修繕工事の話が持ち上がった際は、トラブルを防ぐためにすぐに不動産会社などの専門家にご相談ください。