借地権問題

実例!貸主と借主の信頼関係破壊の判断基準について、判例をもとに解説します!

借地上の建物の増改築を行うにあたって気を付けておきたいのが、増改築等禁止特約です。増改築等禁止特約に違反してしまうと信頼関係を破壊してしまう恐れがありますが、どのような判断基準で破壊されるのか気になるところです。

それでは、3つの事例を踏まえた信頼関係を破壊する判断基準についてご説明しましょう。

増改築等禁止特約に違反して無断で増改築を行った場合、借地契約を解除することは信義則上許される?

この事例は、貸主であるXの先代が借主であるYに対して昭和27年10月15日、Xが所有する土地を普通建物所有のために20年の期間と賃料を設定し、さらにYが借地内の建物を増改築または大修繕を行う時は貸主の承諾を得なければならないことを条件としました。

もしこの契約に違反した場合は催告せずに借地契約を解除し、賃借物の返還を要求されても異議を述べないという内容の特約を遵守することを条件に賃貸しました。その後、Xの先代が亡くなったことにより、昭和35年10月5日にXの単独所有となり、手続きを終えて貸主の地位を承継しました。

問題が起きたのは昭和35年9月下旬、YがXに無断で大改築及び大修繕を開始しました。当然Xは書面で大増築工事を中止するように言いましたが、Yはそれを無視して工事を続行。Xは先代から続く増改築等禁止特約に違反したとして借地契約の解除と共に建物収去土地明渡しを求めて訴訟を提起しました。

貸主に著しい影響がないので借地契約の解除は信義則上許されない

裁判所の判断では、Yが行った大増築工事は建物の維持保存のために普通なことなので、借地契約の解除は認められないというものでした。2階の大増築など一見すると建物の維持保存が目的でなかったとしても、建物の同一性が失われていないので、特約があったとしても契約解除には至りません。

Yが行った増改築は今後も建物を維持保存するためのものなのに、借地契約まで解除されたら堪ったものではありませんよね。その後もXは諦めずに上告したようですが、それでも信頼関係の破壊が認められるレベルではないので上告は棄却されたようです。

増改築等禁止特約に違反して信頼関係を破壊する恐れがあると認められる修繕とは?

次のケースは、貸主のXと借主のYの間で平成3年5月30日に結ばれた借地契約です。建物所有目的で20年の期間中に、Xの事前承諾を得ることなく借地上の建物の増新築や改築大修理等を行った場合は、Xが無催告で契約解除ができる特約付きでした。

しかし、平成21年8月頃、YはXに承諾を得ることなく無断で主に屋根部分の補修工事を行いました。これを受けたXは平成21年8月28日付の書面でYに対して借地契約を解除する旨の意思表示を行い、建物収去土地明渡しを求めて訴訟を提起しました。

補修工事だけで信頼関係の破壊は認められない

裁判所の判断では、Xに無断で補修工事を行ったとしても躯体の取り換えなどを行ったわけではないので借地契約の解除は認められないということになりました。今回の補修工事は建物を利用している上で一般的なものであり、なおかつ特約内容に記載された、工事による耐用年数の大幅延長によって借地権の存続期間に影響するものではありません。

さすがに躯体の取り換えなど、耐用年数を大幅に延長して借地権の存続期間に影響するレベルであれば信頼関係が破壊された判断される恐れがあるでしょう。

増改築等禁止特約における増改築に該当する場合の解除を行うにあたり、信義則上許される?

最後のケースです。昭和47年頃に土地の貸主であるAが借主のBに本件土地を賃貸しました。その後、AからC、D、Eと土地の所有権が移り、最終的に平成9年11月12日にXが競売手続によって土地を取得しました。

一方でBは土地を賃貸した後に借地上に建物を所有し、Xが土地を取得した後に、Yに建物のみを売却しようと考えます。そして賃借権譲渡許可の申し立てを行い、無事に許可されたので平成25年6月27日に借地権を譲渡しました。

その後、Yは総額約8000万円もの工事を行うことにしました。これに対してXは工事について承諾しないと示したものの、Yは構わず着工したため、Xは工事の中止を催告しました。工事を中止しない場合は借地契約の解除をすると勧告したにも関わらず、Yは工事を完成させます。

Xは増改築等禁止特約違反による解除を理由に建物収去土地明渡しを求めて訴訟を提起しました。

特約違反に該当するものの、妥当な工事であれば信頼関係は破壊されない

裁判所の判断では、今回の工事は確かに増築や改築にあたるので特約違反に該当するかと思われるものの、工事によって寄宿舎、シェアハウス、事務所として賃貸するために行ったことであり、使用態様を大きく変えるものではありません。

あくまで残存期間中に建物を有効活用するための合理的なものであり、朽廃時期が遅れると認められないこと、そして工事前にYはXに工事の全容を開示しており、信頼関係が破壊される用件を満たさないものとして訴訟を棄却しました。

たとえ特約違反に該当するものでも、工事内容をしっかり吟味すれば信義則上は許されるでしょう。

まとめ

信頼関係が破壊されるかどうかは、よほど貸主にとって不利になる工事を行ったかによって変わると言えるでしょう。ただ、特約違反に該当する場合でも、工事の内容次第では信頼関係は破壊されないと判断されているようです。いずれにしても、借主は、やむを得ない事情を除いて貸主に無断で工事を行うのは避けた方が良いでしょう。

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