建物所有を目的に土地を借りる権利である「土地賃借権」。この土地賃借権の譲渡については、貸主の権利を守るために、さまざまな制限があります。
貸主・借主ともに、土地賃借権譲渡についての知識をしっかり身につけることにより、トラブルや不利益を防ぐことが可能です。この記事では、事例をもとに土地賃借権譲渡許可のポイントについて、実際に過去にあった判例を元に解説します。
マンションなどの区分所有の場合、賃借権譲渡はどうなるのか
【事例】
借主は、一棟の建物内(以下マンション)の区分所有建物を所有しており、貸主との間に敷地部分について借地契約を結びました。
その後、マンションの管理組合は臨時総会にて建て替えを決めるが、借主はこれに反対したため、臨時総会の招集者は、書面で建て替えに参加するか否かの回答を請求。回答がなかったため、区分所有法63条4項にもとづき、区分所有建物と敷地の賃借権を時価で売り渡すことを求めました。
その後、臨時総会の招集者が、借主に対して800万円の支払いと引き換えに、区分所有建物の所有権移転登記手続を要求。その主張が裁判で認められました。
総会の招集者は、貸主に賃借権の譲渡の承諾を求めましたが、合意にいたりませんでした。そこで、臨時総会の招集者は、区分所有法63条4項の売渡請求権を行使した場合にも、借地借家法20条の類推適用(法律上の規定がなくても、似た事柄の法律を適用すること)がされるべきだと主張しました。
借地借家法20条では、第三者が賃借権の目的の土地上にある建物を競売などで取得した場合、取得した人物が賃借権譲渡許可の申し立てを裁判所に求めることができるというものです。つまり、裁判所に区分所有建物がある土地の賃借権譲渡許可を請求したというわけです。
貸主は、借地借家法20条の類推適用ができるかを争うとともに、類推適用がされるなら借地借家法に定められている、貸主が優先的に借地権を買取る介入権も認められるべきだと主張しました。
【裁判所の結論】
裁判所は、総会の招集者に対して借地権譲渡の許可をしましたが、貸主の介入権を認めました。
借地権譲渡の許可については、もともと借地借家法20条では、競売や公売といった取得者の意志にかかかわらず賃借権が譲渡され、取得者が事前に借地権譲渡の承諾を求められない場合に、取得者が裁判所に許可を求められるようにするために定められています。今回も取得者が事前に借地権譲渡の承諾を求められないため、類推適用が適切だと判断されました。
その一方、介入権については、借地借家法20条の類推適用がされるなら、借地借家法で認められている介入権も当然認められるべきとの決定がくだされました。
貸主に著しい不利益があっても、敷地の一部の借地権譲渡は可能か
【事例】
借主Aは、貸主と借地契約を結び、建物Aと建物Bを所有していました。借主Aは、このうちの一棟を借地の一部の賃借権とともに借主Bに譲渡しましたが、貸主の承諾が得られずに、承諾に代わる借地権譲渡許可の裁判を起こしました。
借地権を一部譲渡した場合、残りの土地は公道に接する面が少なく、建築基準法にのとった増改築が不可能になり、さらに残りの土地の奥行きが深いこともあり、土地が有効利用できなくなります。
【裁判所の結論】
裁判所は、借主Aの訴えを棄却しました。
賃借権の一部譲渡は、借地の有効利用という点から、全てが不適法ではないが、譲渡により貸主が著しい不利益を受ける場合は、申し立てを棄却すべきだというのが理由です。
土地が細分化されることで、将来的に借地の一部が返還されても、その土地を有効利用できないケースでは、貸主の不利益が大きすぎるため、借地権譲渡の許可ができない可能性があります。
他の土地にまたがった建物に関して、介入権を行使できるか
【事例】
借主Aは、貸主Aから本件の借地を借り、さらに隣接する土地を貸主Bから借りて、両方の土地にまたがった建物を建築し、所有していました。
その後、借主Aの建物所有権や借地権は、競売によって借主Bへと移ります。
借主Bは貸主Aに対して賃借権譲渡の承諾を求めましたが断られたため、借地権譲渡の許可を得るため裁判所に申し立てました。
それに対して貸主Aは、建物と土地賃借権の取得を求めて、介入権を使って申し立てました。
ちなみに、貸主Bに関しても借主Bは申し立てをしたが、借主Bが譲渡を承認するという和解が成立しています。
【裁判所の結論】
貸主Aの介入権は認められませんでした。
理由としては、裁判所は賃借権およびその土地上の建物を貸主へ譲渡することを命じられるが、賃借権の範囲にない隣接土地や、隣接土地の上にある建物部分を譲渡することは命じられないからです。
またがり建物において、借主がいる場合は、建物の部分的な撤去が難しく、紛争につながりかねないので、原則的には介入権は認められません。
まとめ
借地権譲渡の許可については、さまざまな事情が考慮されたうえで決定されます。特に、マンションなどの区分所有、貸主の不利益が大きい、他の土地にまたがって建設された建物といった事情がある場合は、非常に複雑です。
トラブルを防ぐためには、専門家のアドバイスが不可欠です。