長い年月が経過すると、借主が借地上の建物を増改築したくなることも多数あります。しかし、借地契約を結ぶ際に増改築禁止特約をつけるなどして、貸主の許可なく増改築ができないようにするのが一般的ですので、借主は増改築を自由には出来ません。
もし借主が増改築を希望する場合、貸主の承諾を得るとともに、承諾料を支払います。また、承諾料は、更地価格の3~5%が相場といわれています。
貸主の承認が得られなかった場合、借地人は貸主の承諾に代わる承諾を求めて、裁判所に申し立てを行います。
この記事では、増改築許可に必要な条件や、財産上の給付額の決定において考慮されるべき事情について説明します。
ケース1:増改築許可に必要な条件とは
貸主と借主は、借地契約を結ぶ際に、「契約日から6ヶ月以内の増改築は認めるが、それ以外の増改築は貸主の書面による承諾が必要」という特約を結んでいました。
借主は息子夫婦との同居を視野に入れて、本件建物の2階部分の増築を希望。貸主と交渉したものの承諾を得られず、貸主の承諾に代わる許可を得るため、裁判所に申し立てました。
貸主は、本件土地における建ぺい率(その土地に建築できる建物の大きさの指標)は30%であり、容積率は60%であることから、本件建物は現時点で建ぺい率などによる制限上から、違法な建物であると指摘。今回の増築は、建築基準法に大きく違反しており、許可すべきではないと主張しました。
ケース1の結果
裁判所は、借地権の専門家による鑑定員会の意見を検討したうえで、建築基準法所定の建築確認をして、その限度の範囲内で増築を許可すると判断。また、借主に対しては、財産上の給付として39万円を支払うことを命じました。
財産上の給付の金額については、本件建物が建ぺい率による床面積制限をややオーバーしているものの、今回の増築自体は容積率による建築制限に引っかからないこと、建ぺい率違反についても建築確認を受ける際に指導を受けて改善が可能だと認めました。
そして、増改築を行う建物に建築制限違反があったとしても、増改築の際に制限違反をクリアできる可能性が充分にある場合は、建物の増改築を許可しない理由にならないという判断がされました。
また、本件建物の一部が私道として使われており、その使用状況によっては、建物の許容面積を計算するための敷地面積からその面積が引かれる可能性を指摘。それに伴い、今回の増築により容積率による制限に引っかかるかもしれないが、また増築規模を調整すればクリアできると判断しました。
一般的には建築基準法に違反するような増改築は許されませんが、建ぺい率といった増改築内容の調整によって建築基準法を守れる場合は、建築確認の結果を限度とした増改築を許可するのは妥当だと考えられます。
ケース2:増改築許可における財産上の給付はどのような事情を考慮すべきか
貸主と借主はそれぞれ相続により、借地契約を引き継ぎました。この裁判は昭和51年に行われましたが、借地契約は昭和47年に更新され、更新後20年存続。増改築禁止の特約が結ばれており、貸主には賃料以外に権利金、更新料といった名目の金銭は支払われたことはありません。
借主は、借地上に本件建物を新築しましたが、裁判時点ですでに26年が経過しており、老朽化が進行。とはいえ、まだ朽廃(建物が古くなり使用できなくなること)しているとはいえず、通常の修繕を行えばしばらく使える状態でした。また、借主は建物で菓子や餅などの製造販売を行っていました。
借主は増改築許可を申し立て、第一審では近隣の悪影響や法令上の違反がないことから、増改築を認められました。そして財産上の給付については、鑑定委員会は更地金額の6%にあたる130万円にすべきとしましたが、総合的に判断した結果、更地価格の2%にあたる40万円となりました。
これに対し、貸主は増改築を認めた点について抗告。借主も財産上の給付について附帯抗告(相手方の控訴に乗る形での控訴)しました。
ケース2の結果
裁判所は増改築の許可については貸主の抗告を棄却したうえで、財産上の給付金額を、鑑定委員会が提示した130万円に変更すると判断しました。
旧借地法では、増改築許可の際の財産上の給付額を決定するにあたり、下記のようなさまざまな事情を考慮すべきとされています。
・借地権の残存期間
・増改築により延長される借地期間
・土地の状況
・増改築に伴う建物の収益増による貸主への利益還元 など
本案件では、増改築により借地契約が延長されること、残存期間中の朽廃の可能性がなくなること、借主が商売に使用しており土地使用の経済価値が高いこと、更新料の授受がないこと、などさまざまな事情を考慮し、鑑定員会の提示額が妥当だと判断されました。実際にどのような事情が考慮されるかについて参考になる事例といえます。
まとめ
増改築の許可には建築基準法が関係しますし、財産上の給付額はさまざまな事情を総合的に判断して決定されます。
非常に判断が難しいので、増改築を行う際はトラブルを防ぐためにも、事前に貸主と話し合い、場合によっては専門家のアドバイスをあおぎましょう。