そもそも借地条件変更の「事情の変更」とは?
「事情の変更」とは、簡単に言えば契約を締結した当時と現在で事情が大きく変わったので、そのまま契約を続行させるとお互いに公平さが欠ける結果になると判断した時に契約を解除するか、契約内容を改定することです。
旧借地法に基づく借地権譲渡において、借地条件変更を左右する事情の変更の有無が、”いつになるか” が非常に重要なポイントになります。事情の変更の有無がいつになるのかによって、問題の相違点が大きく変わるので注意が必要です。
それでは、 借地権譲渡において借地条件変更の「事情の変更」はいつを基準とするのかご説明しましょう。
今回の事例におけるケース
A:Xの前の借主であり、Yから本件土地を賃借していた
X:AからYの承諾を経て本件土地の借地権と本件土地上の建物を譲り受けた
Y:Xに土地を貸した人
事の発端は昭和43年12月26日にXがAからYの承諾を得て、本件土地の借地権と本件土地上の建物を譲り受け、借地契約を締結させたことです。
Xは本件土地を譲り受ける条件を木造建物所有とし、期間は昭和44年2月1日から20年としました。
契約を締結したこの時、周辺は古い建物が多い上にほとんどが2階建て程度の建物ばかりでした。しかし、それから10年以上経った後の周辺地域は、前面道路の土地が商店や事務所の商業地となっており、鉄骨や鉄筋による3階建て以上の建物が見受けられるほどです。
建築中の建物ですら鉄骨や鉄筋を使っているため、これを受けたXは目的を木造建物所有から堅固建物に変更し、鉄骨造6階建てを建てる計画を立てます。しかし、これをYに報告して計画を進めようと協議したところ、調わなかったのでXはそのまま借地条件の変更を求める申し立てを行いました。
しかし、YはAからXに借地権を譲渡した時、『木造建物の所有以外は譲渡を承諾しない。鉄骨造6階建ての計画を立てるなら貸せない』とし、これにXも了解していたことから申し立て自体が許されることではないと断固拒否しました。
Xの申し立ては本当に許されないことなのか
今回のケースの判決は、裁判所の判断により、堅固建物への変更を認めるものとしました。
何故なら、建物と借地権が譲渡されるのであれば、借地権も非堅固建物の存在を前提として考えるべきだからです。ここで重要になるのが、旧借地法8条の2第1項における事情の変更の有無です。
今回の場合、契約を締結した当時は周辺環境共に木造建物が大部分を占めていたので、当時は木造建物の所有を目的とするのが妥当です。しかし、そこから年月が経った今、本件土地やその周辺地域は準防火地域や商業地域に指定されており、商業地の拡大によって商店や事務所が立ち並ぶ地域として発展しつつあります。
さらに、周辺地域は鉄筋や鉄骨造りの建物が大分を占めつつあるため、Xも木造建物の所有から目的を堅固建物の所有を決定づける事情の変更があると認められます。耐震性や耐火性など、諸々の耐久性を考えれば鉄骨造の建物を所有しようとするのは妥当な判断だと言えますね。
今回のケースの場合、Xは契約締結当時は納得していたものの、のちに鉄骨造の建物が増えてきたので本件土地上の建物も鉄骨造にしようと計画を立てていました。しかし、その相談を持ちかけたところ、Yは契約締結当時の内容に反するからダメだと拒否したため、ここでお互いに公平さを欠く結果になりました。
裁判所の判断により、鉄骨造の建物を建てる計画を進めることを認められたため、Xが判決を勝ち取ったと言えます。
事情の変更の有無はいつが基準になる
今回のケースの場合、目的を変更する前の事情は借地権を譲渡した時ではなく、借地権を設定した時が基準になります。つまり、Xの前の借主であるAの借地権を設定したのが少なくとも昭和33年以前だったため、Yが不服を申し立てようと木造建物が大部分を占めていた当時の状況から今の鉄骨造が大部分を占めつつある状況に対応しようとするのは自然なことだと判断できます。
そもそもYがXの申し立てを許されないと言いましたが、Xの目的の変更や権利行使は正当なものなのでYの主張の方がおかしいと言えます。
また、今回のケースで一番重要なのは、借地権の譲渡ではなく、XがAから借地権を引き継いだことにあります。Xは借地条件において新たな合意があったわけではなく、あくまでAから借地権を引き継いだだけなので、事情の変更やXの目的変更が行使されるのは当然のことです。
まとめ
借地権を譲渡するにあたり、あとから目的を変更する際にややこしくなりがちなのは致し方ないかもしれません。問題は借地権のを譲渡した時ではなく、借地権を設定した時なので、その当時と現在で事情が大きく変われば事情の変更に基づく目的の変更が難なく認められることになるでしょう。