もしも建物滅失後、借地借家法10条2項における所定を提示した時、これを第三者が撤去すると借地権の対抗力はどうなるのでしょうか?借地借家法は建物の登記など様々な要件が絡んでくるので誤解が生じやすく、どのような条件が重なると借地権の対抗力が変わるのか知っておきたいところです。
それでは、上記の借地権の対抗力等について、実際に過去にあった判例を元に解説します!
第三者が介入すると対抗要件の扱いは正反対になる
借地権の対抗力があるかどうかは、建物の滅失を行っているかどうかでハッキリと違います。
本来は借地借家法10条1項により、建物の所有権登記が借地権の対抗要件となります。しかし、建物が滅失すると建物の登記の効力が無くなるだけでなく、同時に借地権の効力も無くなるのが原則です。
しかし、借地借家法10条2項の建物滅失の救済措置により、一定事項を土地上に提示することによって2年間は対抗力が発揮されるようになります。
これなら建物が滅失したとしても安心できるかもしれませんが、ここで問題になるのは第三者の手によって提示が撤去された場合です。
借主が建物の滅失後も対抗力を維持したい場合は、借地借家法10条2項所定の提示を行う必要性がありますが、借地の新しい所有者が所有権を取得した時点で所定の提示が撤去されていた場合は借地権の対抗力が無くなってしまうのです。
たとえ借主の意思に反するものであったとしても、新しい所有者が背信的悪意者、つまり第三者が事前に提示の存在や従前建物が存在していたことを知っていた場合を除き、借地権を対抗することはできません。
それでは、一例をご紹介しましょう。
ケース:Xは対抗力を発揮できるのか
今回、建物滅失後に借地借家法10条2項における所定を提示した時、これを第三者が撤去すると借地権の対抗力が無くなることに関する事案が発生したケースについて裁判所の見解を見ていきましょう。
今回はA、B、C、D、Y、Xの6人が登場します。
主役である建物はAから本件の土地を賃借したBの相続人であるXが相続し、そしてBが本件の土地に建てた建物も相続しているので登記も具備していました。Yは本件土地の新しい所有者となります。
C社はAの譲受人です。
そこで以下の経過を鑑みて、借地権は誰にあるのか、対抗力があるのかなどを求めて訴えを起こした次第です。
Y社は背信的悪意者として認められない
上述した事案の詳細を見ると、まるでY社がD社と共謀してXの邪魔をして一方的に所有権を主張したように見えますが、裁判ではXの訴えは棄却されています。
本来であれば借地借家法10条2項によって一定事項を土地上に提示すれば2年間は対抗力が発揮されます。しかし、これはあくまで所定の提示を行った後に対抗力が発揮されるものです。つまり、建物滅失から所定の提示が行われるまでの間は、対抗力が消滅したままになっています。
この消滅している間に第三者が当該借地の権利を取得した場合は、たとえ後から所定の提示を行ったとしても第三者に対する対抗力は一切ありません。同様に所定の提示が行われたとしても、第三者が権利を取得する前に提示が撤去された場合でも借地権を対抗することはできません。
ただし、一旦行われた提示が撤去された場合、第三者が権利を取得する際に提示の存在を知っていた、もしくは従前建物の存在を知っていたとなると建物登記の調査によって借地権の存在を知ることができるものと判断されるので背信的悪意者とみなされるでしょう。
とはいえ、今回の事案の場合、Y社は所定の提示や滅失建物の存在を知っていたわけではありませんし、D社と共謀していた証拠がありません。つまり、Y社は背信的悪意者ではないということになります。
Xは提示がない状態なので本件土地の所有権を所得しているY社に対して借地権の対抗力を発揮することはできません。
まとめ
借地借家法10条2項は複雑ですが、所定の提示を行うタイミングが重要です。提示が行われる前までは対抗力が消滅したままなので、対抗力を発揮したければ早急に所定の提示を行う必要性があるでしょう。