借地権問題

実例!主たる建物が朽廃しても、借地権が消失しない!?イレギュラーな事例を解説

主たる建物が朽廃しても、必ず借地権が消失するわけではない

旧借地権法においては、契約期間に定めがない場合、借地上に建物がある限り、半永久的に借地権は消滅しません。しかし、借地上の建物が朽廃(きゅうはい)した場合は契約が終了します。

朽廃とは、建物が古くなってボロボロになってしまい、その価値を失ってしまった場合を指します。具体的には次のような状態があげられます。
・建物が容易に倒壊する危険性がある状態
・老朽化や腐食が激しく、修理費と新築費が変わらない状態

しかし、朽廃は必ずしも借地上の全ての建物や部分で、同時に起こるわけではありません。この記事では、(1)借地上にある数棟の建物のうち主たる建物のみが朽廃した場合と(2)借地上にある一棟の建物のうち独立の効用を有する一部分が朽廃した場合に、借地権の消失はどのようになるのかを、実際にあったケースをもとに解説します。

ケースの概要について

今回取り扱うケースでは、借地上には、下記の図のように、居宅である借地上には主たる建物と物置である付属建物(④)が建っていました。

借地権朽廃

主たる建物は、大きく分けると①~③の部分からなっており、②の部分は独立して賃貸の対象となっていました。

借地上の建物は、全般的に腐食・損傷が見られましたが、それぞれの部分の腐食・損傷度合いは異なっていました。詳しい状態は以下の通りです。

・①③部分
数年間空き家になっていたこともあり、腐食や損傷が激しく、建物自体が不安定な状態です。強風や強い地震があれば簡単に倒壊する危険性があり、人に被害が及ぶ可能性があります。

・②部分
腐食の程度は①③部分と大きな差はありませんが、居住者がいるため維持管理はされています。また、平屋建て部分のため、倒壊の危険性も少ないといえます。現状のままでも5~6年、適切な補修や修繕を行えば、10年~12年ほど住居として使用できます。

・④部分
腐食の程度は激しいものの建物が軽いため、倒壊の危険はありません。今後3~4年、適切な補修や修繕を行えば6~7年、物置として使用できます。

このケースでは、①③部分は、修繕を施せば居住として使用できるものの、修繕費用がかさみ、新築費用よりも高額となることから、旧借地法の朽廃にあたります。しかし、②部分と④部分はまだ充分価値があるとみなされ、朽廃にはあたりません。

ここで問題となるのは①、③部分が朽廃していることにより、連動して②部分や④部分の借地権が消滅するかどうかです。

④部分については、(1)借地上にある数棟の建物のうち主たる建物のみが朽廃した場合に。②部分については、(2)借地上にある一棟の建物のうち独立の効用を有する一部分が朽廃した場合に、それぞれ該当します。

裁判所では借地権についてどのような判断がされたのか、それぞれ見ていきましょう。

(1)借地上にある数棟の建物のうち主たる建物のみが朽廃した場合

借地上に複数の建物が存在し、その一部だけが朽廃したとき、数棟の建物がワンセットで機能を果たす場合は、従たる建物が朽廃していなくても、借地権は消滅します。

今回のケースでは、④は物置であり主たる建物に付属していると考えられています。④の利用だけでは借地契約の目的を達成できないので、主たる建物を構成する①③が朽廃した場合、特に④だけ借地権を存続させる理由はありません。ですので、①③の朽廃と連動して④の借地権も消滅します。

ここでのポイントは、朽廃した①③の部分と④の関係が主従関係にあることです。もし④が独立していれば、判断が変わってくると思われます。

(2)借地上にある一棟の建物のうち独立の効用を有する一部分が朽廃した場合

借地上に存在する1棟の建物が、独立で機能するいくつかの部分に分かれている場合は、以下のような点を考慮して、借地権が存続するか否かを決めます。
・朽廃した建物部分が主たるものかどうか
・独立した状態で敷地の利用関係を維持できるか
・契約または地形から見て分割して利用できるのか

今回のケースの場合は、下記のような状態です。
・②部分は1つの建物として独立した機能を持ち、実際に独立した状態で居住者がいる
・②部分の居住者が①③部分の敷地を利用する必要がない
・②部分の敷地と、①③部分の敷地を分割して使用できる

そのため、②の敷地部分は独立しているとみなされ、朽廃した建物部分である①③の敷地のみ借地権が消滅し、②の敷地部分についての借地権は存続します。

ここでのポイントは、朽廃した①③部分と、使用可能な④部分が独立して機能している点です。

ポイントは朽廃部分と使用可能な部分の関係性

今回ご紹介したケースから分かる通り、借地権が消滅するかを判断するポイントは、朽廃した建物や部分との関係性です。そのため、こういったケースの場合は、複数の建物や部分の主従関係をどのように判断するかで、借地権が消滅するかが左右されます。

朽廃や建物の主従関係の判断は非常に難しいので、困ったことがあれば専門家に相談するのをおすすめします。

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