借地権問題

実例!借地契約における増改築や修繕とは?特約の有効性は?判例をもとに解説します!

借地契約を結ぶ際に、建物の増改築により耐用年数が伸びることなどを防ぐために、増改築禁止特約を結ぶケースは少なくありません。しかし、建物を維持・保存するための通常の修繕を禁止する内容の特約は無効となります。

ですが、建物を維持・保存するための修繕と、増改築の境界線があいまいなため、貸主と借主の間でトラブルが起きるケースもあります。「大修繕」と呼ばれる大規模な修繕は、増改築と同じ扱いをされることも少なくありません。

この記事では、2つの事例をもとに、過去に裁判所ではどのような判断が下されるのかを解説します。

ケース1:現状維持のために行った修繕についての判断

本ケースの貸主と借主は、木造普通建物所有を目的とした借地契約を締結。下記のような特約を結んでいました。

・天災や地変、内乱、暴動といった不可抗力により、建物の全部または一部が焼失・損壊した場合は、借主は貸主にすぐに通知をして、指示に従わなければいけない。
・借主は貸主の承諾を得ないで、借地や建物などの原形を変えることや、借地内に建物を新築、または増改築することはできない。

このような条件のもと、借地期間満了後も法定更新により、借地契約は継続してきました。

その後、借地上の建物の一部が火災で焼失したため、借主は貸主に対して増改築許可の裁判を申し立て、許可を得て借地上に建物を建築し、地代を改定する和解が成立しました。

その決定に従い、新築建物の建築工事の準備として敷地の周辺にコンクリートの杭を数本立て、作業所も数件建てました。その後、台風により作業所の屋根の一部が損壊し、貸主に通知せず修繕を実行。さらに、作業所のトタン張替も行いました。

そのため、貸主は無断で杭を設置したり、建物を改築したりしたことを理由に、本借地契約を解除する旨を示しました。

ケース1に対する裁判所の判断

裁判所は、無断改築などを禁止する特約自体は有効であるが、借地上の建物の増改築などは、本来は借主の自由であると指摘。仮に特約違反があったとしても、土地を通常利用するうえで妥当 かつ、貸主に大きな不利益が発生しない場合は、信頼関係が破壊されるとはいえず、契約解除はできないと判断しました。

さらに、建物の現状維持のため必要な程度の修繕は、特約で禁止されている増改築に該当しないと判断。本件に関しては、古い建物であるため修繕は当然あり得る点、台風という自然災害による損壊である点、建物の外観や仕様への影響が少ない点、全面にわたる大規模な工事ではない点から、増改築には該当しないとしました。

杭についても、建物所有の目的に伴う整地なので、大幅に地価を下げるようなものでない限り、許されるべきだとの見解を示しました。

ケース2:建築確認不要の工事は大修繕に該当するか。無断改築による契約解除は有効か

本ケースの貸主は、最初の借主に「貸主の承諾を得ずに借地上の建物の増改築や大修繕をしない」という増改築禁止特約付きで、土地を貸していました。最初の借主と貸主は親しく付き合っており、最初の借主は小さな改築でも必ず貸主の許可を得ていました。

その後、今の借主たちが相続により借地権を獲得しましたが、契約内容を正確には把握していませんでした。その後、貸主は今の借主たちに対して、告知なしで実施した工事が極めて不快であると指摘したのにもかかわらず、現在も何ら連絡もないまま工事が進められている点を指摘。本借地契約では、増改築には貸主の承諾が必要なので、工事着手前に工事の目的や内容などを知らせるよう要求しました。

その結果、借主と貸主の間で本件工事に関するやりとりが行われ、貸主が図面を請求しましたが1ヶ月以上開示されず、さらに送付された改修工事図面には、耐震補強工事に関する記載がありませんでした。

記載がなかったにも関わらず、実際は耐震補強工事が行われ、本件建物の耐震性は大幅に向上。さらに、内装工事によりほぼ旅館に用途が限定されていた本件建物が、事務所兼研修施設として使用できる状態となっていました。

貸主は無断改築を理由として、借地契約の解除と土地・建物の明け渡しを要求。借主らは、本件工事が建築確認を要さないため特約には違反していない、違反していたとしても信頼関係は損なわれていないと主張しました。

ケース2に対する裁判所の判断

裁判所は、建築基準法において建築確認が必要かどうかは増改築禁止特約の有効性には、必ずしも影響しないとしました。そのうえで、本件工事により建物の耐震性が向上し、用途も広がったことから大修繕にあたると判断しました。

さらに借地契約に増改築等禁止特約が定められているため、必要や貸主からの要求に従い、工事の内容についての正確な情報を開示する義務があったのにかかわらず、実行していない点を指摘。信頼関係は破壊されており、契約解除を認めるべきだとの結論になりました。

まとめ

修繕が増改築等禁止特約における「大修繕」にあたるかどうかは、工事の内容や建物の機能がどのように変化したかによって判断されます。

そのため借地上の建物の修繕が発生した場合は、トラブルを防ぐために専門家に判断をあおぐことが大切です。

Top