建物買取請求権とは、借主が貸主に借地上の建物を買い取る請求を行う権利のことですが、この権利を行使するためには様々な条件があります。これからご紹介するのは建物買取請求権に関する行使時期の事例なので、興味がある人は是非とも参考にしてみてくださいね。
それでは、建物買取請求権の行使時期について、実際に過去にあった2つの判例をご紹介しましょう。
建物収去土地明渡請求訴訟の事実審の口頭弁論終結後に建物買取請求権を行使できるか
まず最初のケースでは、貸主であるXが借主であるYに土地を貸したことから始まりました。
Yはこの土地を利用して土地上に建物を所有し、それを第三者に貸していました。そして借地期間を終えたのでXはYに建物収去土地明渡請求訴訟を提起したところ、Yは事実審の口頭弁論が終結するまでに建物買取請求権を行使せず、判決でXの請求が全面的に認められました。
しかし、Yは建物収去土地明渡請求訴訟の確定判決における建物買取請求権の強制執行は決して許せるものではないものとして求める請求異議の訴えを提起し、異議を唱えました。
第一審では建物買取請求権は投下資本回収方法として特別に認められているので、行使するかどうかは借主の自由であること、そして建物収去土地明渡請求訴訟の確定判決が決まったとしてもYの建物収去義務に関する部分は執行力を失うものとしてYの請求を認めました。
Xはこれを不服として上告しました。
○口頭弁論終結後に建物買取請求権を行使することは可能
裁判所の判決では、建物収去土地明渡請求訴訟の確定判決が決まったとしても、借主は建物買取請求権を行使することにより、確定判決による強制執行を許すことができないとして請求異議の訴えを提起し、異議の事由として主張できるものとしてXの上告を棄却しました。
これは実体法上、口頭弁論終結後に建物買取請求権を行使しなくてもその権利が消滅するわけではないので、権利を主張しても遮断されることはありません。このことから、建物買取請求権の行使に関する異議を唱えることができます。
建物買取請求権は貸主と借主にとっていつ行使されるかどうかのタイミングが重要になるので、タイミングを見極める必要性があるでしょう。
貸主が借地契約の更新を拒絶して提起した建物収去土地明渡請求訴訟において、立退料の支払いと引き換えに建物収去土地明渡しを命じる判決が言い渡された後でも、建物買取請求権を行使できるか
次のケースでは、貸主であるYが借主であるXに土地を貸したことから始まりました。
今回の借地契約は一度更新されましたが、期間満了を迎えた時にYは更新を拒絶してXに対して建物収去土地明渡請求訴訟を提起しました。
第一審ではYの請求を棄却しましたが、Yが控訴し、更新を拒絶する正当な事由を補完するための立退料として1億5435万円をXに提供する旨を申し出ました。そして請求の趣旨を変更して提起したところ、控訴審はYの請求を認め、Xは立退料を受け取るのと引き換えに建物を収去して土地を明け渡すように命じる判決を言い渡しました。
Xはこれを不服として上告したものの、ほどなくしてXの上告が棄却され、控訴審判決が確定しました。それから間もなく、XはYに対して建物買取請求権を行使しました。
Yはこれに対し、建物は公衆浴場の経営に使われているので経済的な観点から取り壊すことができない上に、既に十分な立退料を支払っているので建物買取請求権の行使は権利濫用だと主張しました。しかし、Xは立退料はあくまで更新を拒絶する正当な事由を補完するためのものであり、今回の建物買取請求権の行使に影響する理由はないと反論しました。
○立退料は建物の収去に伴う損失を十分すぎるほどに補填している
裁判所の判断では、1億5435万円という破格の立退料が既に支払われており、なおかつ建物を収去した時の損失があったとしても十分すぎるほどに補填されていると判断し、Xの請求を棄却しました。
確かにXの言う通り、あくまで更新を拒絶する正当な事由を補完するためのものであり、今回の建物買取請求権の行使に影響する理由はありません。建物買取請求権とは、借地借家法13条1項の趣旨では、「未だに経済的効用がある建物の取り壊しを回避するための制度」なのです。
しかし、今回の建物は老朽化した公衆浴場であり、今後も公衆浴場として老朽化傾向にある建物を継続して使うのはかなり困難であるだけでなく、建物の取り壊しを回避する要請をすることもできない状況下にあります。
それなら建物を収去せざるを得ない状況になりますが、今回は既に1億以上の立退料が支払われているのが最大のポイントです。これを踏まえると、建物の収去に伴う損失を考慮しても十分すぎるほどに補填されているので、棄却されても特に問題はないと判断できるでしょう。
まとめ
建物買取請求権は行使が認められないと借主が建物収去義務を負うことになるので不利益になりますし、逆に行使が認められると貸主が建物収去義務を負うので不利益になります。
この行使を行うタイミングは非常に重要ですが、その前後で起こった事柄次第では十分認められない可能性があるので注意が必要です。