借地権問題

実例!建物が消滅した場合、借地契約更新はどうなる?不動産会社が徹底解説

旧借地法においては、借地権が消滅するのは主に次の2つの場合です。

・契約期間に定めがない
借地上の建物が朽廃(きゅうはい)した場合。朽廃とは、建物が古くなってボロボロになってしまい、その価値を失ってしまった状態を指します。

・契約期間に定めがある
契約期間が終了した場合。ただし、借地上に建物が存在する場合は、原則的に法定更新(=自動更新)され、地主が断るには正当事由が必要です。これは、旧借地法では、建物の保持を守るために借主保護に重点が置かれているためです。

つまり旧借地権法においては、建物保持を守るという目的があるため、借地上に建物がある限り原則的に借地権は消滅しません。

しかし、法定更新の前に借地上の建物が消滅し、新しい建物が建てられた後に、元の建物が朽廃すべき時期が到来した場合、借地権はどうなるのでしょうか?

(1)元の建物を保持するために借地権の更新が行われたのだから、元の建物が朽廃すべき時期が到来したら、借地権は消滅する。

(2)借地権の更新前に新しい建物が建てられた以上、保持すべきは新しい建物なので、元の建物が朽廃すべき時期が到来したとしても、借地権の更新は有効でありそのまま存続する。

(1)(2)どちらの考え方を採用するかによって、借地権の消滅・存続の判断は、180度変わります。実際のケースをもとに解説します。

ケースの概要について

借地権朽廃消失更新
借主Y1は、貸主Aから木造建物を所有するために土地を借りて、建物(=旧建物)を建てていました。しかし、火災により旧建物が焼失したため、借地期間満了前に、借地上に新たな建物(=新しい建物)を建築。本件建物は、借地権の残り期間を過ぎても存続すると予想されたので、貸主Aはすぐに再築に対して異議を伝えます。

その後、Aが死亡して借地の所有権と貸主の地位はXらに引き継がれます。新しい建物はY1がY2に貸していました。

借地期間満了となったため、Xらは借地期間の満了または旧建物の朽廃を理由に、Yらに使用継続を認めないと通達。訴えを起こしました。

裁判所でどのような判断がされたのか、見ていきましょう。

旧建物と新しい建物どちらが、借地権存続の判断基準なのか

このケースの場合にポイントとなるのが、旧建物と新しい建物のどちらが借地権存続の判断基準となるかです。

もし、旧建物が判断基準となる場合は、借地権期間満了のタイミングで朽廃していたはずなので、借地権期間は更新されません。そのため現在は借地権がないとみなされて、Yらは新しい建物を撤去して土地を明けす必要があります。

逆に新しい建物が判断基準となる場合は、借地権期間満了時に借地上に保持すべき建物が存在しているので、原則法定更新となります。借地権が存続しているので、Yらはそのまま借地を使用し続けることができます。

判決では、一度借地権が更新された以上は、更新後の借地権は、旧建物ではなく、新しい建物を保持するために設定されていると考えるべきであると判断。さらに更新後の借地権の存続期間は、新しい建物のために保障される必要があるとされました。

つまり、「(2)借地権の更新前に新しい建物が建てられた以上、保持すべきは新しい建物なので、元の建物が朽廃すべき時期が到来したとしても、借地権の更新は有効でありそのまま存続する」という考え方が採用されたのです。

新しい建物を建てる=借地権が存続するというわけではない

この判決からすると、借主が借地期間満了前に旧建物を取り壊し新しい建物を建てることで、永久に借地権を延長できてしまうのでは…と思うかもしれません。

しかし、本ケースの判決の中でも「建物の再築に対して貸主が異議を述べた事情や旧建物の朽廃するであろう時期は、借地権更新時の異議の正当事由があるかどうかの判断時に考慮されるべき」とされており、貸主が一方的に負担を強いられないように、利益を調整したうえで判断されます。

例えば、貸主の反対を押し切って借主が借地上の建物に大掛かりな修繕工事をした場合などの事情がある場合は、その旨考慮されます。

実際の裁判でも、借地権の満了前に旧建物が朽廃状態になる時期が来た場合は、借地権がその時点で消滅すると判断されたケースがあります。

つまり、借地権の存続を狙って借地上に新しい建物を再築しても、その状況や経緯によっては、必ずしも借地権が存続するとは限らないというわけです。

まとめ:借地権存続の判断は総合的に判断される

これまで説明した通り、契約更新前に建物が消滅し、新しい建物が建てられた場合、借地権の存続や期間は、新しい建物を基準に判断されます。

しかし、貸主が不利益をこうむるのを防ぐため、貸主の反対があるのに借主が修繕を強行し、朽廃が到来する期間を先延ばしにした場合などの事情がある場合は別です。事実、もともとの朽廃すべき時期が来た時点で借地権が消滅したとする判例もあります。

このように、借地権が存続するかどうかは、それぞれの案件の具体的な状況を考慮して総合的に判断されます。専門家でないと判断が難しいので、借地上の建物の再築や修理が発生する場合は、不動産会社などに相談するのをおすすめします。

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